ウサギ伝。

朝鮮の昔話「ウサギ伝」です。
物語を読み始めてしばらくして、あれっと思いました。
「竜宮」と「肝(きも)」。
もしかして、このお話は日本の昔話の「くらげのお使い」と同じなのでは?


ウサギ伝のあらすじはこうです。
竜宮の王様が病気になってしまいました。それを治すにはウサギの肝が必要だと知り、
竜王はスッポンにウサギの肝を取りに行かせます。
陸地でウサギを見つけたスッポンは、竜宮での素晴らしい暮らしを話して聞かせ、
一緒に行こうと誘います。
ウサギは話に乗ってスッポンと竜宮に向かいますが、途中でスッポンがうっかり、
実は竜王がお前の肝を食べるのだと明かしてしまいます。
そこでウサギは知恵を働かせて、
肝は身体から出して洗って干してあるから陸地まで取り戻らなくては、
と言うのですね。
そしてスッポンと一緒に戻ったウサギはスッポンの背から降りてさっさと逃げて行きます。
スッポンは騙されたことに気づきますが後の祭り…。

そのお話が日本の昔話では、病気になったのは竜王の娘。
そしてスッポンの代わりにクラゲ、ウサギではなくサルです。
クラゲはサルの肝を持って帰るのに失敗して、その罰として骨を抜かれてしまい、
今の姿になってしまうのですよね。


韓国のウサギ伝も日本のクラゲも、インドの本生譚(ほんしょうたん)に由来します。
本生譚(Jātaka ジャータカ)は、仏教の経典の中にある前世の因縁物語のことで、
547もの物語が収められているそうです。
法隆寺の玉虫厨子には、飢えたトラの前に身を投げる前世のお釈迦さまの絵が描かれていますが、
それも本生譚の一つです。

元になった本生譚の「龍猿説話」では、
竜王のお妃さまが身ごもって、猿の肝が食べたいと言います。
そこで竜王が直々に陸地まで行き、猿を連れて来ようとします。
猿の言葉を鵜呑みにしたせいで肝を手に入れられなかった部分は同じです。

本生譚では前世と現世の物語がセットになっているのですが、
前世の部分の印象が強いのか、前世の部分だけ切り離されて伝わっているようです。
ウサギ伝は前世の部分ということです。


この物語が半島で初めて登場するのが、「三国史記」の善徳11年(642年)の項です。
新羅の金春秋(後の武烈王)は百済との戦いの中で娘と娘婿を失います。
そこで百済への反撃のために高句麗に援軍を頼みに行くのですが、
高句麗の宝蔵王から援軍の条件として領土割譲を迫られ、
それを拒否した金春秋は捕らえられてしまいます。
そこに高句麗の先道解という大臣が密かにやってきます。
かねてから新羅と通じていた先道解は金春秋に「鼈兎之説(ウサギ伝)」の話をします。
そこからヒントを得た金春秋は上手く窮地を脱することができたのでした。
「鼈兎之説」では竜王の娘が病気になります。

日本の「クラゲのお使い」は、物語としては単純で、
クラゲが知恵を働かせて猿を連れ出したけれど、猿の方が一枚上手だった、
という騙し合いのお話ですよね。
日本の昔話もいくつかバリエーションがありますが、
韓国の「ウサギ伝」はもっと複雑で長い物語に進化したようです。

まず、タイトルがたくさんあります。
「별주부전 鼈主簿伝」「토생원전 兎生員伝」「수궁전 水宮伝」
「토의 간 兎の肝」「중산만월전 중산満月伝」「별토전 鼈兎伝」
「수궁용왕전 水宮竜王伝」「토별산수록 兎鼈山水録」「토끼타령 ウサギ打鈴」…。
こんなにたくさん^^
パンソリでは「수궁가 水宮歌」という題です。
YouTubeに動画がたくさんあります。こちらなど。
タイトルもそうですが、異本となると120以上もあり、版によって内容も結末も異なるということです。
山の神様が山に自生している朝鮮人参で病気を治してくれたり、
更に、ウサギがワシに襲われたり網にかかったりしては危機を脱する話など、
庶民の楽しみのためにいろいろなエピソードが加えられていったようです。
儒教的な色合いも濃いです。

騙し騙されの面白さと同時に、時代の空気も感じられます。
口伝だった物語が文字で記録され始めたのは朝鮮王朝後期なのですが、
その頃は中世の解体期、それまでの封建体制に新しい思想が入って来て揺らいでいた時代でした。
そんな時代に小説化されたウサギ伝では、
スッポンは儒教社会の伝統規範である「忠」を正当化する存在。
それに対してウサギは、封建体制を否定し、もっと自由な生き方を夢見る革新的存在。
どの立場を肯定的に見るかで物語の解釈が変わってしまいますね。
こんな風に捉えると楽しい物語が難しくなってしまうのですが、
当時の文人なども物語を真面目に批評しているのです。

この他にも、忠誠心に厚いスッポンと尻込みした他の臣下たちとの対比や
出世のために頑張るスッポンの事情など、風刺的で興味深いです。


調べていて、「朝鮮小説史(金台俊著)」という本に出会いました。
1939年に書かれたものを、安宇植さんが1975年に翻訳されています。
まだ第3章「童話、伝説の小説化」しか読んでいないのですが、面白いです^^

日本の「くらげのお使い」(猿の生胆、くらげの骨なし)は、
今昔物語集の巻第五、天竺部に載っている「龜、為猿被謀語」が元です。
今昔物語ではクラゲではなく亀の夫婦が登場して、
身ごもった妻さんのために亀が猿の肝を探しに行きます。
いつごろ猿からクラゲに変わったんでしょうね~。


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Comment

あら、ウサギ伝はとっても有名で知られたお話しなんですね!

日本の昔話などでは120もの変わり版は無さそうですけども、どうなんでしょうか?

「朝鮮小説史」は、原文でお読みになっていらっしゃるのですか? 長い本でしょうか? 図書館にあるかなぁ、もちろん日本語版のほうですが(^^;)。

私は今「最初の朝鮮通信使 李藝」という本を読み始めたところです。
ハーちゃんさま^^

韓国ではきっと誰もが知っている昔話だろうと思います。
日本の「くらげのお使い」などもいくつか変化形があるようですよ。
「朝鮮小説史」は日本語で読んでいます。400ページくらいです。
原書が手に入ったとしても、こんなに古い韓国語は私には歯が立ちません~(笑
朝鮮通信使もとっても興味あります。ブックレビュー楽しみにしてます(*^^*)
  • 2016/10/17
  • るるる
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図書館にありましたぁ(^^)。予約しました。今日もうきっと届くと思います。って、中央図書館にあるようで、いつもそこが最寄りお隣りの区の図書館なのです(^^)。

こちら良いお天気です!
ハーちゃんさま^^

あって良かったで~す!
図書館がたくさんあっていいですね~♪
私は時間がかかりそうですけど、ハーちゃんさんならサラサラと読めることと思います(*^^*)

最近またなんだか暖かくなりましたよね。過ごしやすいのはありがたいですけど、変です~(+_+)
  • 2016/10/18
  • るるる
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はい! 今日は暑かったです。タンクトップに薄手のジャンパーでも汗をかきましたぁ(^^;)。

いや、私、読解力が無いので読むの遅いと思われます(涙)。
ハーちゃんさま^^

わ~、そんなに薄着できるほどの気温だったんですね!
知識が乏しすぎて分からないことだらけですが、楽しく読んでいますよ~。
今10時です。眠気と闘いながら読んでいましたが、今日はそろそろ限界です(笑
  • 2016/10/18
  • るるる
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